三国志大スペクタクル劇画(?)『蒼天航路』も、いよいよ30巻目に突入。
劉備、孫権の荊州での冷戦、
曹操の漢中制圧、魏王就任、そして曹操、孫権の合肥の戦い…中国大陸を舞台に、東西南北あらゆるところで同時進行的に物語が加速し始めます。
今後の展開、ますます楽しみですね。
…ところで、30巻で気になる人物が出てきたかと思います。
石徳林、またの名を「寒貧」。
ほとんどの読者が、彼を知らなかったのではないでしょうか?
もちろん、私もです。
なので、簡単に彼のことを調べてみました。
石徳林は、『正史』にその存在を刻まれている、実在した人物です。
『魏書』「管寧伝」の一部に、数人の「隠遁者」に関する記述があります。
その当時著名だった「隠遁者」のひとりが、石徳林でした。
若い頃、長安で学者について勉強をしたようですが、とくに「方術(
仙人の使う霊妙な術。神仙術)」に興味を示し、その頃から「隠遁」の気が芽生えたようです。
馬超、韓遂らが叛乱を起こした際に難を避けて一時漢中に移り、また曹操の漢中制圧後に長安へ帰還します。
長安帰還後、彼は意図的に人との面会を避け、名を聞かれても答えず、官の招きにも応ぜず、「
阿呆」を装うようになり…乞食のような生活を生涯貫きました。
…変わり者ですね、いわゆる。
しかし「変わり者」というだけで片付けるには、疑問が残ります。
このような人物を、『正史』の著者陳寿が何故わざわざ後世に残そうとしたのか?
「隠遁者」の記述に関して陳寿はこう述べています。
「門をとざして閑静を保持し、現世の栄利にあくせくしなかった。だから彼らを付記したのである」
乱世は、上から下まで人間の欲が大放出される時代ともいえます。
そんな時代にあって、異なる価値観(やや老荘的な、当時としてはオルタナティヴな価値観)を生き方で示した人物の存在を、陳寿は残そうとしたのだと思います。
彼らの存在も、また三国時代の豊穣な人間絵巻に華を添えているのだと思います。